オグラ ケンユウ
Ogura, Kenyu
小倉 健裕 所属 法学部 法律学科 職種 准教授 |
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言語種別 | 日本語 |
発行・発表の年月 | 2025/05 |
形態種別 | 学術雑誌 |
標題 | 会社法における議決権の停止 |
執筆形態 | 単著 |
掲載誌名 | 月報司法書士 |
掲載区分 | 国内 |
巻・号・頁 | (639),58-64頁 |
総ページ数 | 7 |
著者・共著者 | 小倉健裕 |
概要 | 会社法には、株主の議決権が停止される場面がいくつか定められている。それは従来ある種の利益相反へ対応するものであったが、平成26年会社法改正では、仮装払込みへの制裁としての議決権停止が新たに導入された。また、直近では、金融商品取引法のエンフォースメント手段としての導入も議論されている。現行の議決権の停止について、以下の性質を指摘できる。①明文の根拠が必要。②停止は自動的に効力を生じる:停止の原因が発生すると、裁判所の判断なく自動的に議決権の停止が発動する。特別の手続きを要しないことは利点でもあるが、停止の原因に解釈の余地がある場合には、停止が効力を生じているか否かが判然としないことにもなる。③停止は解かれうる:議決権の停止の原因となる事実が解消されれば直ちに議決権が回復される。
このような議決権の停止の最大の利点は自動的性質にあり、これによって裁判所の関与なしに、当事者による適時の対応が可能となる。議決権停止の事実が明らかであれば、会社は即座に対象株主を投票から除外でき、もし誤って議決権を行使させた場合でも、会社または株主が当該決議の瑕疵を争うことができる。他方で、議決権停止の自動的性質にはリスクもある。たとえば「仮装払込み」という事実の有無に当事者間に見解の相違がある場合には、結局裁判所による判断を仰がなければ議決権停止の取扱いの是非は明らかにならない。さらに、会社や多数派株主が少数派株主を排除するために議決権の停止を恣意的に用いる危険もある。裁判の結果、停止の取り扱いが誤りであったとされれば、その間に行われた株主総会決議の有効性が動揺し、企業運営の安定性が損なわれるおそれがある。 議決権停止の自動的性質に内在するこの不確実性は、現在議論されている金融商品取引法等のエンフォースメントの手段としての議決権停止において一層顕在化するものと推測される。そこで議決権停止の原因として介在する概念はより難解なものとなるであろうし(たとえば「共同保有者」(金商法27条の23第5項)など)、企業買収法制の一環としての性質上、会社の側もある程度積極的に議決権が停止されている旨を主張すると予想されるからである。したがって筆者は、新たに導入される議決権停止制度については、自動的性質を排除して、裁判所への申立てによる制度として定めることを提案する。 |